遅咲きプリンセス。
 
私だから、よかった……?

彼の言葉を心の中で反すうする。


「俺さ、恥ずかしすぎて今まで誰にも言えなかったけど、最終面接のときに緊張しすぎて具合が悪くなってさ。廊下で吐いたわけ。そこに一番に駆けつけてくれたのが鈴木だったの。一生懸命、俺の背中をさすってくれて。俺が吐いたものを素手ですくい集めてくれてさ……」

「そ、そうだったっけ……?」

「うん。だから、お互いに入社できて、同じ部署に配属されたときは、飛び上がるほど嬉しかった。しかも隣のデスクだし。でも、あのとき吐いた者です、なんて名乗り出られるわけないじゃん。鈴木も覚えてないみたいだったし、5年間、話しかけるので精一杯、みたいな?」


そうだったんだ……。

お互いに片想いをしていただなんて、なんだか間抜けな話で、でも、これでようやく、菅野君がキスをしてきた理由も分かった気がする。

……あのグロスも塗っていないのに。


「それなのに、俺だけの鈴木だと思ってたら、藤原や有村や課長にまでキスを迫られはじめてさ、俺の心臓、もう、バックバクよ。挙げ句にはすっかり綺麗になっちゃって、みんな鈴木に話しかけに行って。……ごめん、めちゃくちゃ妬いて、鈴木と話せなかったぁー」

「あはっ。そういうこと!」
 
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