遅咲きプリンセス。
 
そして、メイクの下の素顔も、心の中も、ピュアであったなら、なおよろしい。

と。

私は、それに気づくのにずいぶん時間がかかってしまい、27歳というかなりの遅咲きになってしまったけれど、それでも、気づけず、咲けないよりはずっといいのではないかと思う。

だって目の前には、ずっと片想いをしてきた菅野君がいて、きっと、私がこう言うのを、拗ねたように唇を尖らせて待っている。


「ねえ、キス……して?」


その直後、ふっと顔に陰がかかる。

そっと目を閉じると、それを合図にしたように菅野君の唇が私の唇と重なった。

リップクリームを塗っただけの私の唇に優しく触れた菅野君のキスは、あのリップグロスのように甘く艶やかで、身も心もとろけるような、それはそれは、甘美で極上なキスでした。










「ねえ。菅野君は、あのグロス、どう思う?」

「ああ、あれ? あんなの、ただの天ぷらの油だろ。俺は昔からグロスは嫌いなの」

「え、どうして?」

「好きなときにキスできないじゃん」


……だそうです、諸見里さん。

次にグロスを開発するときには、ぜひ、菅野君みたいな男性が好きなときにキスできるくらい素の唇に近いグロスを開発しましょう。

私も微力ながらお手伝いさせて頂きます。
 


< 59 / 61 >

この作品をシェア

pagetop