遅咲きプリンセス。
けれど、その密かな決心も、早々に砕かれる。
「えーと、さっきお茶汲みをしたやつ……そうそう、鈴木だ。鈴木、ちょっと顔を貸してくれ。さっきのお客様が鈴木をご指名だ」
お客様がお見えになってから、そんなに時間は経っていないはずなのに、なぜかフロアに戻ってきた課長は、大きな声で私を呼んだのだ。
「そうそう、鈴木だ」までの、私の名前を思い出す過程の心の声までしっかと声に出して……。
「ぼけっとすんな。早く来い」
「はは、はいっ」
ギロリと威圧感たっぷりに命令され、飛び上がるようにして席を立ち、整然と並んだデスクの間を抜け、課長のもとへ小走りで向かう。
その間も、ほかの社員……特に先輩の女性社員からはクスクスと笑われてしまって、正直なところ、とても居心地が悪かった。
課長の歩幅は大きいので、また小走りでついて行きながら、再び応接室に向かう。
けれどその間も、なんであのお客様は地味OLの代表みたいな私なんかを指名したのだろう、と、疑問ばかりが浮かんでくる。
課長のお客様ということは、コスメ商品関係の会社の方だろうとは思うけれど、それにしたって、華やかな部署にいながら私は地味だ。