遅咲きプリンセス。
◆キスのあとには…
「じゃあ、行ってきます」
「よし、行ってこい!」
今日は、以前のプレゼンのときに諸見里さんが言っていた通り、試作ポーチの結果をお聞きするため、彼のオフィスにお邪魔する日だ。
昨日、諸見里さんから電話があった。
課長に景気よく送り出してもらい、会社をあとにすると、電話のあと、メールに添付して送ってくださったオフィスの地図をプリントアウトした紙を広げた私は、どんな結果になっても全力を尽くしたのだから悔いはない……!と、ピンと背筋を伸ばし、通りを歩きはじめる。
と。
「鈴木!」
後ろから呼び止められる。
ゆっくりと振り返ると、視線の先には少し息が上がった菅野君の姿があり、何か忘れ物をしたのかなと思った私は、急いで駆け寄った。
「忘れ物」
「あ、やっぱり? ありがとう」
「うん……」
「ん?」
菅野君の手には、私の忘れ物が握られているようだったので、ちょうだい、と手を出す。
けれど菅野君は急にモジモジしはじめ、なぜか私の“忘れ物”を渡そうとはしてくれない。
不思議に思いつつ、しかし私は頭の中で時間を逆算し、そろそろ電車に乗らないと遅れちゃいそうなんだけどな、と、再度、彼に「ありがとう」と言いながら、先ほどよりも少しだけ、菅野君の体に近い位置で手を出した。