遅咲きプリンセス。
すると、とうとう覚悟を固めたような顔で私と目を合わせた菅野君は、私の手を取り、覚束ない手つきで“忘れ物”を薬指に付けはじめる。
くすぐったい感覚に何をしているのかと思っていれば、彼の手で隠れていた私の手にあったのは、とても可愛らしい小さなハート形のダイヤが乗った指輪だったのだから、言葉も出ない。
「鈴木だったら、きっと大丈夫」
え? え? と、少しも状況が飲み込めないまま、呆然と菅野君を見上げていると、彼はそれだけを言い、会社に戻っていく。
けれど、その背中に今度は私から声をかける。
「ありがとう!行ってくる!」
振り返った菅野君は、照れくさそうにはにかみながら「おう!」と片手を上げ、私はそんな彼に、にこにこと笑いかけると、先ほどよりもさらに背筋をピンと伸ばして歩きはじめた。
会社に戻ったら、改めてお礼を言わなくちゃ。
それまで、キスはお預けだ。
……お互いに、ね。
- END -