遅咲きプリンセス。
どう考えても、おかしい……。
おかしすぎる。
応接室の前へたどり着いたときには、私はすっかり、こんなふうに思い込んでしまっていた。
商談は難航している。
応接室の空気もピリピリだ。
ゆえに課長は、お客様がご指名だと嘘を言って私を連れて行き、「華やかな商品を扱う部署なのになんてお前は地味なんだ!わはは!」と。
そうしてお客様を一笑いさせ、空気を変えたところで、商談を和やかかつスムーズに進めるつもりなのだ、というように思い込んでいた。
笑われるのも仕事のうち。
……私、泣かない。
けれどーー。
「待ってたよ~。じゃあ、さっそく。鈴木さんって言うんだっけ? 少しじっとしててー」
「あ、あの……?」
「ノンノン。喋らない、喋らない」
「……、……」
さっきと同じようにコンコンとノックのあと、お客様の入室の許可を待って「失礼します」とドアを開けると、とたんにこうなった。
全く状況が飲み込めない中、加えて、動いても喋ってもいけないというので課長のほうも振り向けないまま、私はしばしお客様に遊ばれる。
唇に何か塗られているようなのだけれど、これって一体、なんなんだろう……。