サ ク ラ ブ
「てめ…」
唯斗はやり逃げとでも言うようにそそくさと自分の席を探しに行く。
自分も席を探そうと教室の扉から離れようとしたら、今度はなにかが背中にぶつかってきた。
「って、」
「あ、ごめんなさ、前見てなくて…」
俺が後ろを見るとさっき見た姿が額を押さえながら顔をあげてくる。
「あ…九条君…」
「……藤咲、だっけ?」
間違えていない、わかっているのに何故か俺はうろ覚えのふり。
「うん。そうだよ。…なんか九条君に謝ってばかりだな」
藤咲はそう言って困ったように笑う。
「別に気にしてないから、そんな困った顔しないで」
「あ…うん、ありがと…」
そんなことを話して俺達はお互い席を確認して席に着く。
藤咲は なんだか独特な雰囲気を持っている人だった。
彼女の笑ったり、困ったり、余韻として残る表情が俺の頭の中に存在して、
俺よりずっと前の席に座る彼女の後ろ姿を俺はじっと見ていた。