君とひとつ屋根の下で




 

 歩くたび、カンカンと高い音を響かせる階段を駆け下りた。






 「お疲れさん、行ってらっしゃい」






 優しい声に、






 「行ってきます!」






 笑顔で敬礼ポーズを一つ。



 いつも、わたしに明るく優しく声をかけてくれるのは、アパートのオーナー、松本さんだ。



 松本さんは、人が良くて好きだ。



 松本さん一家には、本当にお世話になっている。



 ………と、それよりも。



 チラッと腕時計に目をやって、思わず小さなため息が出た。



 走りながら、何度も何度も腕時計を見る。



 当たり前だけど、針は進むだけで戻りはしない。



 ………ああ、もう。



 絶対拗ねてる、あの子。
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