きみは金色
今からさかのぼって、数ヶ月前。
2年生の1学期にはまだ、レオくんはわたしにとって遠い人だった。
マトモに話したこともなかったんだ。
これからもずっと、遠い人なんだと思ってた。
絶対に関わることなんてないって、思ってた。なのに。
『すっげ、お前ピアノうまいのな!!』
はじまりと、それからと。
たくさんの思い出が一気に蘇りそうになって、心の奥が溶けかけて。
わたしはまた、走り出したくなる。
もうすぐチャイムが鳴る。
戻らないと。でもまだ足先はソワソワしていて、教室のイスには座りたくない。
踏ん張って、踏ん張って。
そんなわたしの衝動を食い止める、赤いスリッパに書かれた名前。
ーー市ノ瀬 真子。
黒い油性ペンを握りしめて、これを書いたとき。
わたしはまだ、とてもせまい、モノクロの世界にいた。