その"偶然"を大切に





 樹くんは会うたびに「何かあったら遠慮なくいって」という。
 けれど……。
 遠慮なくっていわれても、そう簡単に言えるはずがない。


 私生活は個人のものだし、講義のノートは樹くんや奈美に協力してもらっている。不便ではあったが、かなり助かっていた。



 大学生になって、これだけ毎日異性とははなすことはあっただろうか。


 事故のような、あれ。



 わざとではなかった。ちゃんと謝ってくれたし、眼鏡が手元に来るまで彼は私のためにノートをとってくれるだろう。

 そのノートはびっしり書き込みがされていた。あれだけ書く、まとめるのは大変であっただろう。彼から受けとるノートを見るたび、なんだか申し訳なくなる。



 ―――――これも、眼鏡が出来るまでのこと。
 そう思ってノートをファイルにしまいこむと、メールがきた。







「もしかして……千住くん?え、図星?」

「なーみー」






 面白がっている奈美を無視し、樹くんからきたメールを開く。






「眼鏡出来上がったみたい」

「おー、よかったじゃない。これで不便じゃなくなるわねえ。でも」

「なに?」

「千住くんと話すの減るから、寂しくなるんじゃない?」





 どうしてこうも!
 思わず「そうだね」と返せば、奈美のからかいが飛んで来る。
 自分で言っていて、少し納得してしまった。
 寂しい。
 きっと、寂しいと思う。


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