その"偶然"を大切に
メールでは、樹くんが眼鏡を取りに行ってくれるらしいことが綴られていた。だから大講義室で待っていてくれと。
横から覗き見してきた奈美が「逢い引きみたい」ていうものだから、思わず「逢い引きって」と突っ込みを入れた。
ただ、受けとるだけだって。
そう。
受けとるだけ。
「じゃ、私はこれからバイトだから、残念だけど」
「いってらっしゃい」
立ち上がった奈美が「そうだ」といって入り口で立ち止まったので、忘れ物かと思った。しかしそうじゃない。
「明日香って、千住くんに声かけてた子よりかわいいよ」
「なにそれ」
「じゃーねー」
いい逃げか。
でも―――――嬉しかった。
普段可愛いだなんて言われることはない。自分で何かに対して可愛いと感じたり、いったことはある。けれど自分が言われることは滅多にない。
女子から出る"可愛い"はお世辞のようなものだ。それでも、親しい人からいわれるのはうれしい。
出ていった奈美は、本当に"女の子"だ。
ショートヘアーにアクセサリーを身につけ、かつ"女の子"すぎないその姿はなんだかお洒落にうつる。
いいなあ、と思う。
少しだけ、大学生活を満喫している奈美を、私は羨ましく思う。
コンビニで奈美に買って貰ったお菓子を口に放り込みながら、樹くんを待つ。
眼鏡の代金は、全額払うといって譲らない樹くんと私で色々と互いに納得出来るように話し合いをした結果――――樹くんが半分もつことになった。いや、六割といってもいいかもしれない。つまり母から眼鏡代金として貰ったお金まはまだ少しだけ残っていた。
使い道はともあれ、これで問題解決となりそうである。
眼鏡が壊れた壊れた時にはどうなるかと思った。
だって、私にとって眼鏡は欠かすことの出来ないもの、からだの一部なのだ。
眼鏡が壊れたといったときの、母の「どうしてそうなったの?」がとてつもなく突き刺さり、まさか壊されたとは……いや、嘘はよくないと正直にあったことを話すと、その倍あれこれ聞かれたり言われたりしてしまった。多分、「どうなった?」とメールか電話が来るだろう。
でも。
相手が、よかった。
こういうのむたま何だかあまりよくないだろうが、壊したのが樹くんでよかった、だなんて思う。こういう弁償するしない―――などといったのは、結構面倒な問題になるのだ。
不便だった。
けど……彼はそれをちゃんとわかっている。
壊してしまったという責任からかもしれないか、ノートとか凄く助かったし、眼鏡を作る際にもわざわざつれていってくれたし。
―――――これで、いつも通りになる。
いつも通りに。
それはやっぱり、少しだけ寂しい。