その"偶然"を大切に
「明日香さん」
メールで言われた通り、大講義室に彼はきた。
長机にお菓子と飲み物を広げていたままの私は、さっと片付ける。
「すみません、遅くなって」といわれたが、そんなことはなかった。私はすぐに首をふって否定した。
「お店行ったら眼鏡ケースと、眼鏡拭き……っていうのかな。その色どうするって言われて、勝手に選んじゃったんだけど、良かったかな」
手渡されたのは、深緑色の眼鏡ケース。なかなかいい色だった。
ようやく眼鏡が手元にきた。
「ありがとう。取りに行ってくれて。それとお金とかノートとかも……」
「俺こそごめん。本当、不便だったろ」
「……ちょっとだけね。でも、樹くんノートとってくれたでしょ。あれ、凄く助かったよ」
「字下手だけどね」
「そんなことないよ。はっきりしてて見やすかった」
――――本当に。
私がとるノートよりも樹くんのノートのほうが凄い。見て驚いたくらいだ。
少し照れたのか樹くんが「眼鏡」と口を開く。
「かけてみてよ」
「今?」
「そう、今――――あ、でも少し待って」