その"偶然"を大切に





 そういうと何故か樹くんは自分の身を見て、髪の毛に少し触れたりなんかして落ち着かない。
 どうしたの、と聞いた。






「眼鏡かけると、俺の顔はっきり見えるようになるだろ?なんかこう、緊張して」

「なにそれ」






 実は私も同じで、どきどきしていた。
 それはなにも新しい眼鏡だからというものじゃない。

 樹くんの顔をはっきり見ることになるのだ。

 樹くんは前に、怖いと言われると話していた。"不良顔"なのだと。
 確かに樹くんは大きい。身長は百八十近いんじゃないだろうかと思うし、体つきも細いといえば細いが、どちらかというと男らしい感じに見える。
 
 まあ、私の裸眼での"見える"はあてにならないが。

 それでも。
 今まで一緒にいて、樹くんが怖いと思うようなことはなかった。




 人は初対面だとどうしても見た目が先走っていく。見た目で得したり損したりしている人もいる。
 きっと樹くんは後者だ。
 
 樹くんは優しかった。
 怖くなんてない。







「私だって眼鏡かけるの、ちょっと緊張する」

「そうなの?」

「似合うかなーとか」

「似合ってたよ、明日香さん」





 ――――ああ、なんて。
 こう、さらっと言うのだろう。


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