その"偶然"を大切に
恥ずかしくなって、眼鏡ケースを持つ手が熱くなった気がした。顔も少し赤くなったかもしれない。
深緑色の眼鏡ケースをあけて、眼鏡を出す。ああなんだか久し振り。
一応「かけるね」という。言うようなことではないかも知れないけど、一応。
つるの部分を持ち、ゆっくり顔へ。
微調整はお店でやっているから、ぴったりなはずだ。
目を開く。
一変。
モザイクがかった視界が、鮮やかに変わる。
全てのものが、一つずつはっきりとそれを主張するように。
そして。
長机を挟んだ向こうにいる樹くんも見えた。
――――こういう顔をしていたのか。
確かに少し"怖い"かもしれない。
彼は身長があれから、百五十センチちょっとの私から見ると見上げる形になるし、同じ学生でも他の細くて女の子みたいな体格の人とは違うからか、少し威圧感みたいなのを与えるのだろう。
これで茶髪で格好が派手だったら、不良っぽいかもしれない。
「どう……?」
「見える、よ?」
沈黙からの言葉は、なんともぱっとしない。
思わずそのまま椅子に私は座ってしまう。
裸眼からの眼鏡は、裸眼期間が長いだけ少し負担となる。今まで見えなかったものが見えるようになるというのはそれだけレンズの度数がきついのだ。裸眼との差が大きくなる。それで少し目眩がした。
大丈夫か?といわれたそれに頷く。
樹くんはすぐ近くにいて、座っている私は立ってこちらを見ている樹くんをはっきり見ることができる。