その"偶然"を大切に
助手席は恋人の席。
なーんて古い考えなのだろうか。
もう一度「いいの?」と聞けば不思議そうに「乗れない?」と聞いてくるものだから、困った。躊躇う理由をいえば、千住くんが笑う。そしてそのまま「どうぞ」というものだから、おそるおそる乗り込む。
シートベルトに苦戦していると、横から手伝ってくれて「ありがとう」と返した。なんだか酷くいたたまれなくなる。
これが奈美なら全然なんだけど。
それに今、私は眼鏡がないせいで視野はモザイクがかっている。色、形、などは何となくわかるし、それか何かもわかる。けれど細かい部分まではさっぱり。見えているが、見えない。それは結構不安で怖い。
街の商店街の中に眼鏡を扱う店がある、ということで千住くんは車を進めた。
「それだけ視力が悪いと、眼鏡がないとかなり不便ですよね?」
「ええ……相手の顔とかもわかりませんし」
「だからか…」
「え?」
一人納得したようにもらした千住くんに聞き返すと、彼はどこか自虐的に笑っていう。
「俺、昔から"怖い"っていわれるんです」
「怖い?」
子供が泣くとか?
そう言った私に千住くんは「なんというか」と続ける。
彼は昔から同い年の子らよりも一歩、成長が早いというのだろうか……。身長も体格も大きいからか、迫力が出てしまい、そして顔が"不良顔"なのだという。
不良顔……。
ということは、普通の人には何処かこう、近寄りがたく思われるということだろうか。
だからなのか出来る友人も何処か偏り気味であり、ようやく大学でその偏りが少なくなってきた、と千住くんは話した。
そういえば。
女の子だって似たようなものがある。
私はどちらかというと、いかにも女の子らしい感じの人やお洒落すぎる人が苦手で、あまりそういう感じの人と縁がない。
見た目で判断するだなんてもちろん良くないことだが、それはみんなと仲良くしなければならないことには繋がらないことも知っている。全ての人と仲良くするというのは結構難しい。付き合うにも"仲良く"よりも多分、距離をうまくとりながら付き合っていくのが、この先きっと大切になる。
友達はいればいい、という問題ではないはずだ。
「だからか人とあまり目が合わないんです。こっちを見ない、というか。だから図書室でぶつかったときと、さっきもこっちを見てたから、なんというか……珍しいなって」
「ごめんなさい。その、じろじろと」
「謝ることじゃないですよ。眼鏡なかったんだもの」
――――怖い、か。
世の中には色んな人がいて、その数だけ人の顔は違う。
本当に様々だ。
私は、彼がどんな顔なのかわからない。ぼんやりとした輪郭や、髪形、服装とかは何となくわかるが……。
"怖い"と言われる彼がどんな顔なのか少し気になった。
私も彼を見たら――――怖いと思うのだろうか。
車はそのまま、何度か曲がりながら目的地へと進んでいく―――――。
* * *