その"偶然"を大切に
三日目
―――――三日目。
「取り寄せ?」
講義室で奈美の声はよく響いた。声だけならまさかそんな、とでも続きそうだったことに、私はまあそうだろうな、と思った。
昨日、樹くんに連れていって貰ったことを話していたのだが……。その店にレンズが無くて結果フレームだけ選んで、レンズの方は取り寄せて貰うことになったのである。
つまり、まだ私の視野はモザイク化したままなのだ。
「で、千住くんがいるわけね」
「……」
――――そう。
今私や波がいるのは大講義室の一つで、これから必修の授業があるのだ。是非とも出席はしなくてはならない。
とはいえ私は眼鏡がないため、ノートをとるということは出来ない。
そんな私にかわってノートをとると言ったのが樹くんである。彼は今すぐ前の長机にいた。
「というかいつから名前で呼ばれてるのよ」
「昨日」
「ふうん。じゃ明日香も樹くんって呼んでいるのね」
「うん」
朝、樹くんが「明日香さん」と呼んできたのに慣れず、一瞬戸惑ってしまったが嫌ではなかった。それを奈美が目敏くそう、わざと問うてきたのだ。
にやにやしているそれが少し恨めしい。
奈美が何を思っているのか知らないが、私と樹くんの間には何もない。樹くんは私の眼鏡を壊してしまったから、というだけのこと。
本当に、もう。
男女を見てすぐ"あやしい"と思うのはどうなのか。