賭けキス
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賭けキス
少し高台になった埠頭の公園には、海へ向かってベンチがいくつも並んでいる。冬の午後は海からの潮風が少し冷たい。
「ねぇ、あのふたりキスすると思う?」
右隣りのベンチに腰掛けて、言葉少なに海を眺めているカップルを目線で指しながらわたしは云った。
「どうだろう・・・」
ヨシヤは気のない返事を返して、タバコに火を着けた。
わたしは、賭けをした。もし、30分以内にあのふたりがキスしなかったら今日でヨシヤとは終わりにすると・・・
恋愛は直感!が何よりも大切だと信じているわたしは、その賭けを思いついた事自体が直感だった。ヨシヤとの付き合いは、もう半年を過ぎた。特に今のふたりに別れる理由は見当たらない。あえて何か不満をあげるとすれば、キスが減ったことくらいだった。
付き合い始めの頃、デートのたびに今日はキスできるかな?という期待が頭をよぎるだけで、鼓動がドクドクと聞こえてきて、頬が熱を帯びた。
今だって、もしも自分からねだればヨシヤは照れながらキスしてくれる。でも、ねだってするキスと、不意に求められるキスはぜんぜん重みが違う。その瞬間にカラダの芯を突き抜ける感覚や、痺れる感覚。それが違いすぎる。
男の人には、その感覚はわからない。だから、キスを省いて?を重ねようとするんだろうと思う・・・
女にとっては、キスはキス。ふたりの芯をつなぐとても大切な強靭なパイプのような気がする。手をつなぐ、唇をつなぐ、そして?をつなぐ。そうすることで、すべてがしっかりとつながれる。
「ここへ初めてつれてきてくれた時、夕日がキレイだったよね?」
わたしは、その日を思い出しながら云った。
「うん・・・」
「ねぇ、ヨシヤ、今、何考えてた?」
「別に・・・」
「別にって?」
「何も・・・」
「そっか・・・」
「海っていいなぁって。黙って見てても飽きないし、いいなぁって思ってた」
ヨシヤはタバコの煙を吐き出た。
「あのふたり、キスしないねぇ・・・」
「別にいいじゃん。ああやって海見てるだけで満足なんじゃないの?」
面倒くさそうに、ヨシヤが云った。
「あの女の子は、そんなふうに思ってないと思うけどなぁ~」
わたしは小声で、ヨシヤの耳元でつぶやいた。
「じゃぁ、どんなふうに思ってるっていうの?」
「もちろん、キスして欲しい!って」
わたしが云った後すぐに、そのふたりはベンチを立って、駐車場の方へ向かって歩き始めた。
わたしは賭けに負けた。もう、ヨシヤとはこれで終わり・・・そう決めた。
「俺らも、そろそろ行こうか?」
ヨシヤは、わたしの賭けをまるで知っていたかのように云った。
「しょうがないよね・・・うん」
わたしは、自分の気持ちにうなずいてベンチを立った。
わたしはヨシヤの手を自分から取って、駐車場まで歩いていた。
駐車場に着いて、停まっている車を何気なく見た。その車中で、カラダを寄せ合って、さっきのふたりがくちびるをつないでいた。
わたしは、思わず心の中で「ヤッター!賭けに勝った!」と叫んで、ヨシヤのくちびるに自分のくちびるをギュット押し付けた。
そのキスは今までで最高にドキドキした!ワクワクした!カラダの芯に強烈な電流が走って痺れた!