職業「アイドル」



「桃、おはよ~」



「ママ~おはよ~」



ベテラン女優の鍋島緑さんが私に向かって駈け寄って来てくれた。



ギュッとハグをされると、とっても甘くて大人な香りがする。



緑さんは私のお母さん役。



綺麗で優しくてとっても大好き。



うまく出来なくて、本当はすっごく落ち込んでいるのに、現場の空気をこれ以上悪くしたくなくて、いつも笑っていた私の心に気づいてくれた人。




『最初から上手くできるわけないでしょ。私だって若い頃はさんざん怒られて、泣かされてきたんだから。若いあなたたちを育てるのは年食ってる私たちの仕事でもあるのよ。たくさん迷惑かければいいの』



私の持っていた女優さんのイメージは、ワガママで高飛車で自分勝手。



それが一気に覆された瞬間だった。



緑さんをはじめとするこのドラマの共演者の方たちは、とっても気さくで新人の私にもいつも優しく手を差し伸べてくれる。



そんな現場にいられる自分が本当に幸せだと思ったから、私は今の自分に出来る精一杯をこのドラマにぶつけようって決めたんだ。



「桃っち、おはよ~」



「あ、おはよ~」



緑さんと今日のシーンの話をしていると今度は学生服姿の今井猛くんが声をかけてくれた。



人気雑誌の専属モデルを務める今井くんは、長身のイケメン。純日本人らしいんだけど、綺麗な目や整った顔立ち。そのスタイルの良さから最初はハーフの子だと思っていた。



学園ドラマとあって、共演者は私と同年代の子もたくさんいる。



現実はなかなか学校には通えないけど、この現場は学校に近い雰囲気もあって少しだけ青春っぽい気分も味合わせてくれる。



それに実際の学校でも今井くんとはクラスメイトなのだ。



「桃っちとは学校より現場で会う方が多いよな」



「ホントだよね、最近行ってるの?」



「俺は今この仕事以外詰まったスケジュールないからわりとちゃんと学生やってるよ。雑誌の方はほとんど土日だし」



「そうなんだ~。もうすぐテストなんでしょ?私どうしよう」



「今度対策プリント持ってきてよるよ」



「今井くんって・・・神様~」



私たちの学校は、出席日数はある程度考慮されているけど、最低限の単位を獲得しないと進級や卒業は認めてもらえない。



学業と仕事の両立はなかなかハードで、17歳の私にはかなりキャパオーバー。






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