職業「アイドル」
「ここはアップより引きを使ってダンスのシンクロをもっと見せた方がいいと思う」
深夜3時。
大人たちに混ざって、3日前に撮り終わったばかりのPVのチェックをする。
労基法なんて、あってないようなもの。
「あ、いまの姫可愛い!んで、こっちは真帆のダンスにスポットあてたいな」
「桃ちゃんの意見全部聞いてたら、桃ちゃんのアップが極端に少なくなるよ?」
笑いながら監督が影像を切り替える。
私は同じグループのメンバーであると同時に、姫と真帆のファンなのだ。
裏での頑張りを一番近くで見ているだけに、尊敬せずにはいられない。
そしてそんな裏の姿を微塵も感じさせない程、モニターの中の二人は完全にアイドルで、見ているだけで幸せな気持ちになれる、そんな魅力が溢れている。
私の意見を取り入れつつ、バランスを考えながら監督が編集してくれる。
繰り返し繰り返し、何度も何度も。
「ここは桃ちゃんのソロパートで一番の見せ場だから」
クローズアップされた影像の中、見慣れているはずの自分が映し出された。
そこにいるのは私であって私じゃないような、不思議な感覚。
自分の知らない自分を、この人たちは引き出してくれる。
歌うこと以外取り柄のない私が、ちゃんとアイドルに見える。
「桃は歌ってる時が一番キレイね」
マネージャーの万智子さんの言葉に喜びつつ、恥ずかしくて顔が熱くなる。
私は、アイドルという職業に誇りを持っているのに、本当は人に見られることがあまり得意ではない。
その矛盾を乗り越えることが、今の私の最大の壁でもあるのだ。