ぶきっちょ
『失恋しちゃったんだ』
しばらくの沈黙の後、彼女はゆっくり口を開いた。
驚いて彼女を凝視すると、また潤いを持つ瞳。
彼女は俺から目を逸らして、持っていたボールを床に突く。
暗くて静かな体育館に、ボールの跳ねる音だけが響く。
その音が止んだかと思うと、また聞こえる彼女の小さなか弱い声。
『彼氏にね、振られちゃったの』
―彼氏いるらしいぜ?
友貴や、クラスの奴が依然言っていたっけ。
確か前の学校のイケメン。
『好きな子できたんだって』
彼女が思いっきり、ボールを投げる。
俺は何かに囚われたかのように、そのボールの動きをただ目で追った。
高く、高く投げ上げられたボールは重力に負けてやがて彼女の両手へと舞い戻る。
『しかもそれがあたしの親友』
手に舞い戻ってきたボールも見つめる彼女の瞳から、一粒の涙が零れ落ちる。
『笑っちゃうよね』
そう言って彼女はボールから手を離して、目元を拭った。