ぶきっちょ
彼女は立ち止まって、一瞬の間を置いてから振り返った。
驚いたような、戸惑ったような表情で。
「ちょっと時間いい?」
呼び止めたはいいけど、後の言葉が続かない。
俺はとりあえず彼女を空き地の中へと促した。
彼女は躊躇うように、ゆっくり一歩ずつ近づいてくる。
と、表情を一変させて俺をまじまじと見つめて来る。
「……え?どうしたの?」
昨日の自分の一発で俺の頬に痣ができたと思ったのか、彼女は一瞬にして青ざめた。
そんな彼女が可愛くて、俺は微笑みながら返す。
「浜口さんじゃないよ。今日ちょっとやりあっちゃって」
そう言って、少しまだ痛む頬に触れる。
「ちゃんとやり返したし」
彼女が安心するように、おどけたように言った。