ぶきっちょ



本人を目の前にして口に出してしまうと、気持ちが一気に溢れだしてしまう。


押さえきれなくて、俺はそっと彼女に口付けた。


戸惑うように彼女の肩が一瞬動く。


けど、思いっきり抵抗されることはない。


それが意味することを読み取れる程には、俺も余裕がなくて。


反応がない彼女が心配になって一先ず離れる。


しかし、目に入った彼女の瞳からは溢れる涙。


俺は反射的に頬に手を伸ばして、その滴を拭う。


「ごめん、急に」


気持ちを伝えるだけのつもりだったのに。


結局彼女を前にして、押さえきれなかった自分に半ば呆れる。


けど、それ程彼女が欲しい。


「友貴と付き合ってるのは知ってる。けど俺を信じてくれるなら、別れて俺の所に来て」


ぎゅっと抱き締めて、彼女の耳元にそっと囁く。


俺の切実な願い。


ルール違反なのは分かってる。


けどそれだけは、どうしても伝えたかった。

















< 139 / 213 >
表紙・目次

この作品をシェア

pagetop