ぶきっちょ



「ありがとね、わざわざ」


家の前であたしはお礼を言う。


山下くんはただ黙って首を振り、あたしを見つめる。


「…あのさ」


しばらくしてから山下くんが口を開く。


「ん?」


あたしは山下くんの次の言葉を待って彼を見つめる。


「今彼氏いんの?」


「いないけど?」


あたしの答えを聞くと彼はいつもの調子に戻って言う。


「じゃ、今度デートしよ?今日のお礼」


「いいよ」


深く考えることもなく、あたしは冗談のように返す。


「じゃ、また今度」


彼は大きく手を振って去っていく。






**********************


『体育大会で一位になったら俺とデートしねぇ?』


中三の体育大会前日。


あたしにそう言ったのは吉村くんで。


結局スタート直後に派手に転けた彼は二位だった。


ゴールからあたしのいる応援テントに少し決まりが悪そうにVサイン。


あの時は今みたいに軽く返せずに、吉村くんにも笑われたっけ。













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