ぶきっちょ
悠斗
「友貴、俺やっぱりもっと頑張る」
ある日。
昼食を食べながら悠斗が決心したように言う。
「何を?」
俺は好物の唐揚げを頬張りながら尋ねた。
「浜口さんのこと」
悠斗は食べ終わった食器を片付けながら言う。
俺は思わず半分になった唐揚げを落とす。
最後の一個だったのに、とかそんなことは気にならなかった。
ただ、突然の悠斗の発言に驚いて奴を見つめるしかできなかった。
「この前初めて喋ったんだ」
悠斗は俺の様子なんか気にせずに続ける。
「そしたらやっぱりもっと近付きたくなった」
そう言った悠斗は、何だかとても幸せそうで。
「彼氏ともダメになっちゃったらしいし」
そう、悠斗が付け足した。
「それだけ」
そう言うと悠斗は、何事もなかったかのように席を立った。
俺は落とした唐揚げを拾い、器に戻す。
そして意味もなく、ポケットに入れたままの指輪にそっと触れた。