ぶきっちょ
帰り着いた俺は、制服を脱ぎ捨て私服へと着替える。
そんな時に玄関から物音が聞こえたので、そちらへ向かってみる。
「あら、珍しいわね?部活は?」
丁度母親が靴を脱いでいるところだった。
「ちょっと病院行こうと思って。母さんこそ珍しく早いね」
俺がそう言うと、母は少しだけ表情を曇らせた。
「今日はこれから約束あるのよ。無理言って早く帰って来ちゃった」
そう言いながら、自室へと向かう母。
母は美容院を経営していた。
自慢するわけじゃないけど、ここらじゃ結構有名な美容院。
二、三年前に三号店まで開いた。
そんな母はいつも夜遅くに帰宅し、朝早くから出勤する。
俺を女手一つで育てるために。
大学に特待推薦で行きたいのもそれが理由の一つなんだけれど。
母は俺がまだ五歳の時に離婚してから、ずっと苦労してるから。