ぶきっちょ



結局水族館の中には入らずに海辺に並んで腰をおろす。


彼女がゆっくりと話し出すのは、好きだった奴の話。


いや、まだきっと今も…。


彼女に好きな人がいたのは有名な話で。


俺も当然知ってた。


痛いくらいに。


けど、実際に彼女の口から真っ直ぐに告げられるとそれは想像以上で。


思い知らされるのは彼女のそいつに対する想いの大きさ。


こんなに真っ直ぐに想われてる奴は、彼女を受け入れなかった。


誰かも解らないそいつに腹が立って、俺はまた拳を奮わせて。


涙する彼女を思わず抱き締めた。


こんなときにフェアじゃない。


頭じゃしっかり理解してるのに、体ってのは本当に勝手に動くんだな。


抱き締められた彼女に戸惑いが見られたけど、そんなことお構い無しに俺は気持ちをぶつけた。


ずっと。


ずっとずっと伝えたかった気持ちを。


まだまだ俺は彼女に釣り合うほど誠実でもねぇし。


こんなときに付け入るようなことしか出来ないけど。


何故か彼女を幸せにできる自信だけはあった。


いや、絶対幸せにしてやると誓いながら口に出していただけかもしれないけど。
















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