ぶきっちょ
「ねぇ、トモ?」
食事をもうほぼ済ませた頃。
タイミングを見計らったかのように母親が俺に呼びかける。
「パパのこと、覚えてる?」
真っ直ぐ、俺を見つめる母親。
俺はその目から目を反らす。
父親は、物心ついた頃にはいなかった。
子供心に父親を恨んだこともあった。
母親や俺を捨てていった父親を。
「……少しは」
素っ気なく、ただそう答えた。
小さい頃、よく俺の写真を撮ってくれた父親は確かカメラマンだった。
「そう」
母親が少し困ったように笑いながら、箸をおいた。
「あの人ね、今度アメリカに行くの」
母親が、今度は少し寂しそうな表情を見せた。
「で?」
いまいち言いたいことが解らない俺は、母親から視線を反らして話の先を促す。
「発つ前にどうしてもあなたに会いたいって」
躊躇いながら、母親がそう答える。