ぶきっちょ



カメラマンだった父親と美容師だった母親は、ある仕事で一緒になったことで出会った。


お互いの夢を語り合い、意気投合するまでにそう時間はかからなかったらしい。


そして俺が、母親の中に宿った。


母親が仕事を辞めて。


籍を入れて。


一緒に暮らして。


俺が生まれて。


三人で毎日笑って暮らして、喧嘩をすることもなかったという。


俺が保育園に通い出すと、母親は仕事に復帰した。


そこで母親は働く美容院で店長を任されることになる。


母親の夢は、自分の美容院を持つこと。


そして父親の夢は、日本中いや世界中を渡り歩いて写真におさめること。


お互いの夢を叶えるためには、一緒にいられないことにその時気付いてしまった。


母親が仕事を辞めて、家族で暮らしてゆく手もあった。


しかし母親は自分の夢を捨てられるか悩み、


そして父親は母親が夢を諦めることを止めた。


『愛する人から夢を奪うなんてできない』と。


幼い俺をあちこちの環境に置くことにも悩み、


母親が俺を引き取って、そして別々の道に進むことになったのだった。
















< 194 / 213 >

この作品をシェア

pagetop