ぶきっちょ
カメラマンだった父親と美容師だった母親は、ある仕事で一緒になったことで出会った。
お互いの夢を語り合い、意気投合するまでにそう時間はかからなかったらしい。
そして俺が、母親の中に宿った。
母親が仕事を辞めて。
籍を入れて。
一緒に暮らして。
俺が生まれて。
三人で毎日笑って暮らして、喧嘩をすることもなかったという。
俺が保育園に通い出すと、母親は仕事に復帰した。
そこで母親は働く美容院で店長を任されることになる。
母親の夢は、自分の美容院を持つこと。
そして父親の夢は、日本中いや世界中を渡り歩いて写真におさめること。
お互いの夢を叶えるためには、一緒にいられないことにその時気付いてしまった。
母親が仕事を辞めて、家族で暮らしてゆく手もあった。
しかし母親は自分の夢を捨てられるか悩み、
そして父親は母親が夢を諦めることを止めた。
『愛する人から夢を奪うなんてできない』と。
幼い俺をあちこちの環境に置くことにも悩み、
母親が俺を引き取って、そして別々の道に進むことになったのだった。