ぶきっちょ
「そう。じゃぁパパに連絡しておくわね」
安心したように微笑んで食器を再び洗い始めた母親に背を向けて、自室に戻ろうと階段に向かう。
「……っ!!」
階段を一段登ったその瞬間。
右膝を再び襲う違和感。
いや、違和感というよりはもうそれは痛みといったほうがよいもので。
「トモ?」
足を止めた俺に気付いた母親が、不審そうに呼び掛ける。
「ちょっと練習きつかったっぽい」
誤魔化すように笑って、階段を再び昇り始める。
一段一段足を進める度にずん、と響く痛み。
『もしまた痛くなったらすぐに来なさい』
そう言った医師の言葉が思い出される。
大事な選抜の選考会まで、もう一ヶ月を切っている。
頭に浮かぶ最悪の事態を必死に打ち消しながら自室に入る。
荷物を部屋の隅に投げ、制服のままベッドに寝そべる。
『選考会頑張ってね』
帰り際の由香里の笑顔が頭に浮かぶ。
「くそっ」
どうしようもない苛々を枕にぶつけ、俺はそのまま目を閉じた。