ぶきっちょ
大学病院の前のバス停のベンチに座り、ただ呆然とする。
手術したってサッカーに戻れるのは半年から1年。
結局、来月の選抜の選考会には間に合わない。
無理してやるにも、昨日の普通の練習で疼く右膝の違和感がその思考を遮断する。
それに万が一俺が車椅子なんてことになったら。
頭に浮かぶのは母親。
ここまで育ててもらったうえに、孝行の一つもできねぇよ。
どうしようもない苛々を抱え、学校へと向かうバスを何台も見送る。
だいぶ陽が昇ってきているので、もう昼だろうか。
ぼんやりと太陽を見つめる俺に、バスから降りてきた男が近づく。
ベンチの中央を陣取っていた俺は、荷物を寄せて体を動かす。
しかし、男はいつまでも座らない。
不審に思い視線を向ける俺に、男は笑みを浮かべて口を開く。
「友貴か?」
突然見ず知らずの男に名前を呼ばれ、俺は男を凝視する。
40代か50代。
感じのよい顎髭を生やした男は、大荷物を持っていて。
それがカメラやその機材だと気付いた瞬間、男が再び口を開いた。
「久しぶりだな。優衣から聞いたよ」