ぶきっちょ
「ちょうど知人の見舞いに来ていてな」
大学病院の近くにあるファミレスに入り、向かい合って座る男。
俺の父親。
「近々会いに行くつもりだったが、これも何かの縁だろうな」
優しく微笑みながら、注文した珈琲を口にする。
「今日学校はいいのか?」
そんな今更な質問は俺の張り詰めていた気持ちを緩ませる。
「今から行くところ」
俺がそう答えると、父親は珈琲をテーブルに置いて俺を見つめる。
「膝か?」
どきん、と心臓が跳ねる。
そんな俺の様子から全てを悟ったような父親は、口を再び開く。
「さっき歩き出したとき、庇ってたろ。息子のことくらい解るさ」
父親らしいことなんてしてやったことないがな、なんて少し寂しそうに笑いながら。
そのときに何だか、肩の荷がすっと下りた気がした。
父親って存在を知らなかった俺は、初めて父親ってものの良さを知ったのかもしれない。
サッカー部の奴らとか学校の奴らとかには知られたくなかったから、単に関係ない父親になら話せるって感じただけかもしれないけど。