ぶきっちょ



『若い内の一年なんてあっという間さ。少しくらい寄り道したり休憩したりしたって大丈夫さ』


喫茶店で、父親が言った。


物心ついたときにはもう俺と関わりのなかった父親。


実質今日が初めて会話したって言っても、あながち間違いじゃない気がする。


なのに何故か父親の言葉は俺の中に自然に溶け込んでいて。


家に帰って来た俺は、担任から受け取った留学の冊子を真剣に読んでいた。


留学なんて興味なかったけど。


サッカーができなくなった今の生活に、興味を見出だすのも難しい気がした。


だったらアメリカでもどこでも行ってみて、


サッカー中心だった生活から離れてみて、


視野を広げるのも悪くないかな、なんて思ってしまう。


今回の選抜逃しても、また来年も再来年もある。


留学すればまた一年卒業が延びて、高校生活が余分に送れる。


チャンスだって増えるってこと。


考えてみれば、今までサッカー以外に打ち込んだこともねぇし。


他の世界に目を向けてみるのもアリな気がした。


そう結論してしまいそうな俺の頭に浮かぶのは、たった一つの不安。


















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