ぶきっちょ
由香里は待っていてくれるだろうか。
一年留学するってことは、一年由香里とも離れるってこと。
由香里と付き合い始めた日を思い出す。
凛としたイメージしかなかった由香里が、誰かを想って涙したあの海辺。
あの時由香里の中に住み着いていた『誰か』は、まだ彼女の中に存在しているのだろうか。
だとしたら、今彼女から離れたら彼女の中でまたそいつが我が物顔をする。
『山下くん』
そう言って俺に微笑みかけてくれる由香里。
前よりは二人の距離も近付いた気がする。
けど。
由香里の中の『誰か』よりもデカイ存在には、まだまだなれていない気がした。
一度だって下の名前で呼んでくれたこともないし。
そんなことをぐだぐた考えてしまう辺り、俺は由香里中心に回ってしまってる気がする。
サッカーよりも、由香里を失うことの方が痛い気がした。
けどそんなことを由香里が知ったら、それこそ俺に幻滅してしまう気がする。
由香里のように、芯がしっかりした奴になりたい。
並んでてもカッコ悪くないように。
だから。
明日、由香里に留学のことを言おう。
そう決心しと俺は眠りに就いた。