ぶきっちょ
「おはよう」
教室に入ると、いつも通りに静香が挨拶をしてくれる。
あたしは軽く、静香に微笑んで大きく息を吸う。
「おはよう、皆」
緊張で小刻みに震える手を握り締めて、明美や千夏の様子を伺う。
「…おはよ」
明美が小声で言い、千夏はちらっとこちらを見る。
あたしはもう一度深呼吸をして口を開く。
「あたしねっ……」
三人が一斉にあたしに注目する。
静香が心配そうな表情で見つめてるのが分かる。
もう一度ぎゅっと手を握り締め、あたしは続きを言う。
「中三の時、すんごく好きな人がいたんだ」
明美の表情が厳しいものから、驚いたような表情に変わる。
「けど…卒業式の前日に振られたの。だから今は、まだ恋愛なんてしたくない」
千夏と明美が顔を見合わせて、決まりが悪そうに俯く。
「本当に、キモチにけりが付けられたら詳しく話すから。もう少し待ってて」
言い終えると、静香がゆっくりあたしに近づいてきて。
俯くあたしの頭の上に手をぽん、と載せた。
あたしが顔を上げられなかったのは、零れそうな涙を堪えるため。