ぶきっちょ



怖い。


あの時のことを鮮明に思い出してしまうから。


『ごめん、無理』


ひたすら頭の中でリピートされる。


黒川くんを振ったのは自分なのに。


何で自分が振られたときなんか思い出すんだろう。


「何ではっきり言わねぇの?」


突然の声に驚くと、そこにはいつからいたのか山下くんの姿。


ぶっきらぼうだけど、まっすぐであたしの耳に届く。


あたしは黙って首を振る。


少しでも言葉を発したら、涙が溢れそうで。


ただひたすら首を振って、また俯いた。


ちょうど来たバスに、あたしの手を引いて乗り込む山下くん。


何も言わずに、あたしを窓際に座らせる。


自分は隣に座ってカバンを漁る。


あった、と呟くといきなり遮られる視界。


山下くんのタオルをあたしの頭に掛けられたようだ。


そして軽く頭をぽんと叩くと、彼は言う。


「見ないし、聞かない。だから我慢すんな」













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