ぶきっちょ
「もう大丈夫?」
いつもの角で、山下くんが優しく問いかける。
山下くんはいつもあたしを送るとき、家の手前の角まで送ってくれる。
そこから、あたしが家に入るまで見守ってくれてるけど。
どうしてここまでなの?
前に聞いたら冗談のように言ったっけ。
『由香里ファミリーにお別れのチューを見られないため』って。
「何かあったらメールでも、電話でもしろよ?」
山下くんはそう言って、あたしの頭にぽんと手を置いた。
何となくまだお別れしたくなくて、あたしは頷くのを躊躇ってしまう。
「そんな顔されると帰したくなくなるからやめて」
山下くんが困ったように笑う。
何か困らせてばっかりな気がして、あたしはまた涙目になってしまう。
「由香里」
優しく、ゆっくりと名前を呼ばれる。
そして優しいキス。
「また明日な」
山下くんに背中を押され、家に向かって歩き出す。
玄関のドアを閉めるとき、彼は笑顔で手を振っていた。