ぶきっちょ
振り返る前に分かってしまう、声の主。
中学時代、近くで声が聞こえる度にあたしを緊張させた。
最寄りのバス停近くの空き地の塀に寄りかかる、大好きだった彼。
「ちょっと時間いい?」
躊躇いながらも、断りきれないあたし。
ゆっくり、一歩ずつ近づく。
近づく度にはっきり見える、大好きだった吉村くん。
「……え?どうしたの?」
暗がりでよく見えなかった顔が外灯で照らされると、目につく赤黒い痣。
どうやら唇も腫れ、切れているようだ。
まさか昨日の?
不安になって青ざめるあたしに、吉村くんは笑顔で言う。
「浜口さんじゃないよ。今日ちょっとやりあっちゃって」
そう言って傷に軽く触れる吉村くん。
ちゃんとやり返したし、と付け足す。
空き地を見渡し、丁度座り心地のよさそうな場所を見付けると座り込む。
鞄からタオルを出して、地面に敷く。
「とりあえず座ってよ」
そう言ってタオルをぽん、と叩いて笑ってみせる。
あたしは躊躇いながらもちょこんと座った。