ぶきっちょ



「昨日は急にごめんな」


吉村くんが決まりが悪そうに言う。


あたしは首を勢いよく振って否定する。


「いや…あたしこそ叩いたりしてごめんなさい」


そう言いながら吉村くんの頬を見るけれど、痛々しい痣があってあたり直視できない。


しばらくの沈黙。


次の言葉が怖い。


けど逃げないって決めたから。


あたしは意を決して彼の瞳を見た。


「あれ、結構効いたよ」


中学時代のようなからかうような笑顔。


わざと頬を痛そうにさすって、あたしに意地悪する。


しばらくまともに話したりしてなかったのに、違和感がなくて。


『ありえねぇ』って言われてあたしから避けてたこと。


『ごめん、無理』って振られたこと。


吉村くんが千夏と付き合い始めたこと。


そして昨日別れたこと。


全てが嘘のように感じる。














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