ぶきっちょ



吉村くんがゆっくり離れて、あたしの頬を撫でる。


「ごめん、急に」


吉村くんに頬を撫でられて初めて、あたしは泣いていることに気付いた。

「友貴と付き合ってるのは知ってる。けど俺を信じてくれるなら、別れて俺の所に来て」


ぎゅっと抱きしめられて、耳元で言われる。


「もう絶対傷付けたりしねぇから」


彼の顔がもう一度、あたしに近づく。


今度は反射的に突き放してしまう。


あたしは荷物を掴んで、急いで家の方向へと足を進めた。


「俺、本気だから!!!!」


後ろから聞こえる、大好きだった彼の声。


けどこんな時も思い浮かぶ、あの言葉。


『ごめん、無理』


頭が混乱してしまって、何が何だか分からない。


信じようにも無理だよ。


だって事実、あたしは彼にしっかりと振られたんだ。


本当だとしたら何で『無理』だったの?













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