ぶきっちょ
全速力で走って、もう少しで家に着くという頃。
いつもの角に、しゃがみこんでいる人の影。
「…山下くん?」
顔は見えないけど、間違いなく彼だ。
あたしは足を止めて、慌てて涙の痕を拭う。
けどきっと山下くんは、あたしのことなんかお見通し。
優しく頭を撫でながら、『どした?』って聞いてくれるんだ。
そう思ってたあたしの耳に聞こえたのは、意外な言葉だった。
「悠斗の気持ちはマジだよ」
山下くんは顔を上げずに呟いた。
「え?」
「あいつは中ニからずっと、由香里のことしか見てねぇよ」
山下くんが顔を上げてあたしを見つめる。
いつになく真剣な表情。
そして頬には、吉村くんと同じような痣。
『やり返したから』
そう苦しそうに言った吉村くんの顔が思い浮かぶ。
あたしは慌ててしゃがんで、山下くんと視線を合わす。
そっと、痛くないように頬の傷に触れる。
「これ……吉村くんが?」