ぶきっちょ
吉村くん、その単語に敏感に反応した様子の山下くん。
頬に触れるあたしの手を力強く掴み、あたしを引き寄せる。
「俺の前で、他の男の名前なんか呼ばないでよ」
見たことないような、弱々しい表情。
何かを耐えるような、悲痛な感じ。
「その口で、あいつの名前なんか呼ぶなよ」
今にも消えそうな声でそう言う。
そして弱い声とは反対に、目一杯の力でいきなり後頭部を捕えられる。
噛みつくような激しいキス。
いつもの優しく、楽しむようなキスじゃなくて。
何だか乱暴で、山下くんが山下くんじゃないみたいに感じる。
それと同時に感じる罪悪感。
さっき不意打ちとはいえ、吉村くん君とキスしてしまった。
戸惑うあたしの舌を、決して自由にさせてくれない山下くん。
その内息苦しくなって、あたしは必死に抵抗する。
それでも彼は離す気配はない。