ぶきっちょ
「それが由香里の答え?」
やっと解放されたあたしに聞こえてきたのは、さっきよりも更に苦しそうな彼の声。
あたしの頬にはたくさんの涙が流れている。
「何か今まで付き合わせてごめんな」
山下くんがそう言って、立ち上がる。
「悠斗と、幸せになれよ」
笑顔を作っているようだけど、その瞳には悲しみが揺れていて。
けどあたしは、何を言えば山下くんの誤解を説けるかが思いつかない。
今までいっぱい助けてもらって。
いつまでも立ち止まっていたあたしの背中を押しだしてくれた。
山下くんは振り返ることなくどんどん遠ざかる。
何か言わなきゃ、そう思うのに。
あたしは山下くんの背中が見えなくなるまでずっと、ただ見ているしかできなかった。
彼の姿が見えなくなって、あたしはその場にしゃがみこんだ。
そして、今更ながら自覚する。
失ってからその大切さを実感する。
本当にその通りだ。
「友貴……好きだよ」
初めてよんだ彼の下の名前は、届くことなく暗闇に消えた。
【ver.由香里 完】