ぶきっちょ



よし、帰るか。


そう思った瞬間に俺の耳に届いたのは、思いも寄らない言葉だった。


『好き』


『え…?』


思わず彼女の方をまじまじと見つめる。


心なしか、潤んだ瞳。


『ずっと好きだったの。付き合って下さい』
















あの時。


本当は今すぐにでも彼女を抱き締めたかった。


俺も好きだったって伝えたかった。


けど正直に伝えられなかったのは、全部俺のせい。


傷つくことを恐れて。


いつも君と本気で向き合うことを避けて。


冗談しか言えなかった臆病な俺。


楽な方へばかり流されてばっかりだった俺が、あの時しっかり意思を持ってたら。


君を傷付けたりすることはなかったのにね。













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