ぶきっちょ


************************


『隣のクラスの立石、振られたらしいぜ?』


中学二年の五月のはじめ。


あれはゴールデンウィーク直前だった。


立石は野球部のエースで、もてるヤツだった。


『誰に?』


クラス中に言い回るお喋りな男を捕まえて聞く。


『浜口由香里』


そいつはそう得意気に言う。


浜口さんはすっかり有名で。


もう何人もの男が振られていた。


『何でも、彼女は前の学校に彼氏がいるらしいよ?』


噂ではすごいイケメンだって。


そう付け加えると、そいつはまたクラス中に言い回り始める。


……彼氏一筋か。


明らかに落胆する俺に、友貴が隣から声を掛ける。


『遠恋なんてそう簡単に続かねぇよ。すぐ別れるって』


確かにそうかもしれないけど。


あの立石がフラレるのに俺なんか無理だろ。


俺はそう思ってまた大きなため息をついた。















< 84 / 213 >

この作品をシェア

pagetop