ぶきっちょ
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『隣のクラスの立石、振られたらしいぜ?』
中学二年の五月のはじめ。
あれはゴールデンウィーク直前だった。
立石は野球部のエースで、もてるヤツだった。
『誰に?』
クラス中に言い回るお喋りな男を捕まえて聞く。
『浜口由香里』
そいつはそう得意気に言う。
浜口さんはすっかり有名で。
もう何人もの男が振られていた。
『何でも、彼女は前の学校に彼氏がいるらしいよ?』
噂ではすごいイケメンだって。
そう付け加えると、そいつはまたクラス中に言い回り始める。
……彼氏一筋か。
明らかに落胆する俺に、友貴が隣から声を掛ける。
『遠恋なんてそう簡単に続かねぇよ。すぐ別れるって』
確かにそうかもしれないけど。
あの立石がフラレるのに俺なんか無理だろ。
俺はそう思ってまた大きなため息をついた。