ぶきっちょ
「ねぇ、悠斗くん」
部活を終えて千夏ちゃんを家まで送る途中。
今日は午後から雨が降っていて、二人で傘をさして歩く。
傘がある分少しだけ、いつもよりも距離のある千夏ちゃん。
そのせいか千夏ちゃんの声が聞き取りにくい。
「ん?」
少し距離をつめて彼女を見つめ返すと、少し沈んだような表情が目に入る。
そういえば今日はいつもよりも口数も少ない。
「由香里ってさ……」
どきん、と心臓が条件反射で撥ね上がる。
できることなら彼女の話題はしたくない。
そんなことを考える時点で俺は最悪だ。
「中学のときに好きな人いた?」
今度はずきんと心臓が脈を打つ。
あの日の彼女の表情が嫌でも頭に浮かぶ。
「由香里さ、何も話してくれないんだよね」
悲しそうに千夏ちゃんは言う。
もしかしてまだ……。
そう考えた俺は、必死に思考回路を遮断する。
……最悪だよ、本当に。