ぶきっちょ
門の所には、すでに千夏ちゃんの姿がある。
俺に気付いた千夏ちゃんは、いつもの笑顔で駆け寄って来る。
ふとバス停に目を向けると、浜口さんの姿。
隣には、同じ桜高の制服に身をつつんだ男。
ずきん、とまた心臓が悲鳴をあげる。
だって心なしか、彼女が辛そうな表情に見えたから。
「あ、由香里と黒川くん」
千夏ちゃんも彼女に気付いたようで、そう呟く。
「大丈夫かな、由香里」
心配そうに見つめる千夏ちゃん。
体が勝手にバス停に動こうとした時、隣にいた黒川と言う男が去る。
バス停に残された浜口さんは、そのまま呆然としている。
「悠斗くん、行こう?」
千夏ちゃんの声で我に返った俺は、歩き出す。
「由香里なら大丈夫だよ。もうすぐ王子が迎えに来るから」
そう微笑んで、千夏ちゃんが言う。
まさかその王子があいつだなんて知らない俺は、そのまま何も言えなかった。