ぶきっちょ
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『・・・あ』
あれは中学二年の6月ごろ。
いつも通りに部活を終えた俺は、忘れ物に気付いて体育館へと引き返した。
誰もいないと思っていた体育館の扉を開けると、少し驚いた表情で俺を見つめる浜口さん。
誰もいなくなった体育館の隅に座り込んで、一つのバレーボールを抱え込んでいた。
『どうしたの?』
俺は早まる鼓動を抑えて、必死に平常を装って尋ねる。
何せこれが初めての彼女との会話だったから。
彼女は一度うつむいて、目元を気にしてからまた俺に目を向ける。
『あ、俺吉村悠斗。バト部なんだけど』
とにかく沈黙は気まずい気がして、俺はとりあえず自己紹介をした。
『うん、見た事あるよ。あたしは浜口由香里』
少し無理したような笑顔で、彼女が返す。
窓から漏れる明かりで、彼女の頬が照らされた。
・・・泣いた跡のような線が見えた気がした。