ライギョ
俺は半年前に見た大阪城を半年前とは違う気持ちで見上げている。


10年前…もうこの地に来る事はないだろうって思っていたのに。


たったの半年の間に二度も訪れるとは。


日も暮れライトアップされた大阪城は相変わらずその存在感を俺に見せつける。


けれど俺はもう目を背けない。


全てを受け入れ、前に進むと決めたから。


一度は捨てた大阪。


もう二度と来る事はないと誓った大阪。


そして、俺は本当の意味で呟いた。




「バイバイ、安田。」




その瞬間、城の堀で何かがパシャリと跳ねた音がした。


新たなヌシが現れたのかもしれない。


淀君の呪いだとすると新たな生贄を探しているのかもしれない。


けれど俺はそれがなんなのかを確認することはしない。


俺も進みだしたのだから、竹脇が言うように生きてるうちは生きてるうちにしか出来ない事をやろうって。


もう振り向いてはいられない。


俺は祖父から貰った時計に目をやるとスマホを取り出しタップする。


父が出るか、母が出るか


どちらが出たとしてもなんて思うだろうか。


10年ぶりに聞く息子の下手くそな大阪弁を。









ーーーあっ、もしもし、俺やけど


ーーえっ、あ、うん、着いたよ。


ーーー何もまだ食べてへん。うん、めちゃ、腹減ってる。


ーーうん、分かった。急いで帰るわ。今回はほんまにちゃんと帰るって。







俺はどこか擽ったさを感じながら大阪城を後にした。
























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