ライギョ

それまでぽつりぽつりと話していた山中だったけど一気に酒が入り緊張が解れたのか、少し饒舌になって話し始めた。


仕事の話だったり小夜子の話だったり。


あの頃の、賑やかなムードメーカーだった山中を少し思い出させる。


ふと、山中が言った。


「なぁ、安田の事、覚えてるか？」


ストレートすぎる質問に一瞬、思考が止まった。


「覚えてるよな？」


黙っている俺に返事を急かすように山中が言う。


「ああ…、覚えてるよ。忘れる訳ないよ。忘れたくても……。」


「せやな。俺、お前が引っ越す時に言うた事覚えてるか？」


もちろん、忘れる訳がない。


「何もかも忘れろってやつだろ？」


「クックック……」


山中が目の前でいきなり笑い出した。千晶さん山中のグラスに何か入れたのか？


「何がおかしいんだよ。」


「いや、すまん。俺、格好つけてたなって。14、5のガキが偉そうな事言うてたなって。しかもそれを言うた俺が一番引きずってたかもしれんわ。」


そう言うと急に真面目な顔をして山中が言った。












「安田、生きてるかもしれん。」