ライギョ
「ちょっと笑いすぎ。」


「いや、だって……そんな話、俺にしたって山中が知ったらーーーって話がまたズレてる。」


俺は何とか真面目な顔を作ると小夜子に目を向けた。


「うん、話ずれた。ちゃんと話すね……上手く言われへんけど、時々、山中くんが遠くにいっちゃうような気がするねん。」


「遠くって転勤とか?」


小夜子の冷ややかな目で俺が的外れな答えを言ってしまったと分かる。


「あっ、いや、えっと………遠くって居なくなっちゃうってこと?」


慎重に言葉を選びながら再度聞く。


「うん………実質的な距離の遠くって気もするし………それよかもっともっと遠くーーー例えば山中くんそのものがこの世から消えてしまう…とか。」


「死んじゃうってこと?」


「ううん、そういうのとはちょっと違うかな。」


再会してからずっと明るく振舞っていたけど今、目の前にいる小夜子はとても心細けに見えた。


「ごめん、俺、ほんと鈍くて………」


「そんな事ないよ。私もまだよう分からんねん。ただ………」


「ただ、何?何かあった?」


「うん、決定的な何かがあったって訳じゃないけど……一度、二人でお城の堀の辺りを歩いてたら急に柵乗り越えて………」


「えっ、飛び込んだの?」


「ううん、流石にそれはない……ただ、水面に手を伸ばして何かを掴むみたいな事してた。」


掴むって………


「ーーー安田が落ちた時の事がフラッシュバックしたのかな……。」


「その時に微かに山中くんの声が聞こえてん。」







ーーーーーーー俺が落ちれば良かった
































< 54 / 110 >

この作品をシェア

pagetop